更新日:2025.03.08

大規模修繕工事の最適な時期とは?

建物の耐用年数とは

鉄筋コンクリート造の建物の税法上の法定耐用年数は47年となっておりますが、実際は建築から60年以上経過している建物も多く存在します。ここでいう47年や60年の耐用年数はコンクリートの地肌を露出させたまま放置した場合の耐用年数とされており、実際の建物にはタイルや塗装でコンクリート面が保護されておりますので、適切に劣化した仕上げ材のメンテナンスをしていけば更に耐用年数を伸ばすことも可能だと言えます。これまでに行われてきたコンクリート建造物の解体の多くは、都市開発的な理由からの建て替えや長崎の軍艦島のような社会構造の変容によりニーズがなくなった建物の廃棄などであり、長年にわたって適切なメンテナンスを施してきたがそれでも劣化の進行が止められず、やむなく解体せざるを得なくなったというものはないのではないかとお思います。そういった観点からみれば鉄筋コンクリート造マンションの本当の耐用年数は検証データ収集の途中であり、正解には示されていないのです。そこに住まわれる住人様が多く集まり愛着を持ってメンテナンスをすることで、耐用年数以上に維持していける可能性があると言い換えることも可能ではないでしょうか。

何故、12年周期の大規模修繕工事が推奨されているのか?

マンションで作成されている長期修繕計画書では12年周期で予定されており、12年目、24年目、48年目に大規模修繕工事を実施することが、さも当然と言わんばかりに推奨されております。これは国土交通省が作成したガイドラインに基づくものであります。また大規模修繕の実施後に施工会社から保証書が発行されます。例に挙げると屋上防水は10年、シーリング工事は5年、外壁塗装は7年、鉄部塗装は2年と15年~20年ほど耐久性のある材料がないことも大規模修繕12年周期説の根拠となっております。しかし保証年数を超過したからといって即座に劣化が始まるわけではありませんし、建物の劣化進行は施工品質や日当たり等も影響します。

建物構造や使用されている仕上げ材料、その建物がある地理的な条件が異なるのに、まるで判を押したように12年周期の大規模修繕が当てはまるのかという問題は多くの方が疑念を抱くところではないでしょうか。耐用年数を大幅に超過している場合に修繕を検討しないといったことは健全ではありませんが、反対に状態が良いものを耐用年数が到来したからといって交換することも適切な判断だとは思えません。

大規模修繕の時期を見極める判断材料とは?

建物の耐用年数や修繕周期などの目安は、大規模修繕工事を実施を決定する上での判断基準として一定の根拠となっていると思いますが、それだけでは不十分と言えます。マンションによって大規模修繕を実施するとなった場合に問題となる部分は同じではないと思います。ここからはどのようなことが検討事項に挙がるのかを考えてみたいと思います。

築年数や前回修繕からの経過年数                                                          築年数や前回大規模修繕工事を実施してからの経過年数を目安に判断するのが一般的な考え方です。 後述しますが、経年だけを目安に判断してしまうと建物の実情と乖離してしまう場合がありますので一定の注意は必要ですが、まずは年数が経過したという事実が検討のテーブルに乗せる出発点となるかと思います。                                                                                                       

建物の劣化状況

                                                        建築物の実際の劣化状況は、実物を見て判断することが必須です。築年数が経過しても条件が良好ならば良い状態を保っている部分もあれば、何か特殊な理由で本来であれば耐久性を保っているはずの部分が早急に手を入れなければならなくなっている場合もあり得ます。しかし建物を見慣れてない方からすれば劣化の予兆とでも呼ぶべき違和感に気づきにくいかも知れませんので、工事会社や設計会社等の専門家に建物診断を依頼することが望ましいと言えます。                                             

経済情勢的要因                                             昨今、原材料費や化石燃料の高騰によりさまざまな品目の値上げがされておりますが、建設業界も例外ではありません。また今後新興国がさらに経済発展を遂げていくことになれば、世界中で資源の奪い合いとなり価格が下がることは考えにくいです。国内問題の観点からみても人口減少が進んでいるうちは人手が増えることはありません。そうなりますと企業は人材の獲得競争の優位に立つために人件費を上げざるを得なくなり工事費の高騰につながることになります。建設業界ではそういった人員不足を外国人技能実習生に依存してきた場面があったのですが、昨今では働く魅力のなくなった日本よりも他国に労働力が流れていくことも少なくなくなったと耳にするようになりました。そして金融面ではゼロ金利政策から転換し、金利のある世界へ移行を開始しております。まだゼロ金利政策が延長されると思われていた際の調査では住宅購入者の7割程度が変動金利にて住宅ローンを組んでいるとの調査結果がでており、生活必需品の値上げと合わせてローン返済も家計に重く圧し掛かってくる未来が予想されます。こういった様々な事情を鑑みれば、工事コストを圧縮するために数社から相見積を取ることは必須であると同時に数年先に予定されていた大規模修繕工事を前倒しすることも適切な判断となるかもしれません。

資金に不安がある                                              資金面に不安がある場合には大規模修繕の実施はより慎重に検討しなければなりません。その理由として挙げられる事例として、大規模修繕工事では工事の着工後に想定より修繕箇所が増えてしまい追加費用が必要になってしまう場合があります。その場合は大規模修繕工事費用とは別に予備予算を組んでおく必要があるのですが、資金に余裕がない場合は、こういった事態に対処できなくなる可能性が考えられます。資金の調達方法として金融機関から融資を受けるという手段もございますが、金利が負担となってしまい大規模修繕以外にも電気設備や給排水設備等のその他修繕の実施に影響を及ぼしてしまうことも考えられます。そういった状況化での検討事項としては、フルスペックの大規模修繕ありきではなく修繕部位に優先順位をつけて段階的に修繕することが可能かどうかも視野に入れなくてななりません。

まとめ                                                         大規模修繕工事の適切な実施時期は、それぞれの建物が抱えておられる事情が違うことと同義で一概に言えることではございません。判断材料を揃えるためには様々な要件を網羅的に検討していくプロセスが求められるとおもいます。大まかな検討順序としましては、まずは築年数や前回の大規模修繕工事の経過年数を参考に実施時期を仮定し、建物の劣化状況を調査、その後工事内容や資金計画を検討していく流れになります。建物の劣化を止めるためには修繕をする他に手段はなく、時間が経過しても回復することはありませんので、普段から建物の状態に目を光らせ、日々発生する様々な諸問題に早い段階で対処していくことで必ず良い方向に結果が出てくるのではないかと思います。                                                   

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